徒然なるままにビジネスインテリジェンス

渋谷のIT界隈で働く人のブログです。日々感じること、気づいたことなど書いていきます。

メディアのM&A仲介をしていて感じたこと

M&Aアドバイザリーは学びになる仕事

前職のM&A仲介は、色々と学びになる仕事だ。たくさんの経営者の人と話ができるし、事業のことも詳しく教えてもらえる。特に、事業PLやKPIの推移までしっかり数字を伴って知ることができるのは、とても貴重な機会であった。

 

IT領域に強いM&A仲介であったため、Webメディアの売買についてはよく相談が来ていた。色々なメディアを売りたいです、あるいは買いたいです、という要望を受けると、そのニーズに合うメディア運営企業を紹介してつないだり、場合によっては新しく運営者にドアノックで訪問して譲渡の意向も伺う、といったような仕事であった。

 

真面目に頑張っているメディアが売れないという現実・・・

メディア売買に携わる中で、

「真面目に良質な記事を作っているが、まだマネタイズはできていないメディア」よりも「安くてそこそこの記事を量産していて、良く儲かっているメディア」

の方が圧倒的に売れていくという現実に直面することが度々あった。

これには個人的に違和感を感じていた。

 

前々職で自分自身もWebメディア運営に携わっており、そこでは足を使った記事を泥臭く書いていたため、個人的にはしっかりとしたコンセプトと、記事の編集体制を持って運営しているメディアを応援したいという気持ちを持っている。だが、実際なかなか売れないのだ。

 

一方で、クラウドソーシングでライターに激安単価でお願いし、最低限の編集しかせず、校閲などのチェック体制もなく、かつそのサイト内はアフィリエイト広告などの広告であふれていて、サイトのコンテンツも読みづらい、といったようなメディアでも収益性が良ければ、こちらが売れていくのである。

 

そして、実際そういうメディアの収益性は良かったりもするのだ。買い手のことを考えると、投資回収を考える以上、儲かっている事業に手が上がりやすいのは当然だし、そこは納得できる。

 

何故そうなるのだろう?

ただ、仲介している個人としては何故そうなるのだろう、と疑問に思うので、いくつか要因を考えてみた。まず、思うに、違和感を感じるのは次の2点である。

  1. 買い手企業が、譲渡対象メディアに蓄積されたコンテンツ群とそれらを制作する体制づくりに譲渡元の企業がかけてきた時間・労力を過小評価していること
  2. コンテンツの品質が低く、かつユーザビリティでも劣るメディアが、なぜ収益性がよいのか

まず、1、については、メディア運営、特にWebマガジンのようにしっかりとしたコンセプトと読み物として品質を保った記事を提供するような、そういったメディアを運営している企業でなければ評価が難しいのかもしれない。

実際、良いライター・編集者を見つけてきて、採用し、ディレクションして、改善すべきところは改善して、という体制づくりをするのは結構労力と時間を要するものであり、一朝一夕にできるものでない。ここは事業PLには反映されない価値であり、評価が難しいものの、しっかりと価値を理解されないといけないと感じる。

 

ビジネスモデルにも差があるのではないか

2、については、ビジネスモデルが関係しているだろうと考えている。しっかりとした読み物系記事を出しているメディアは、企業からの記事広告でマネタイズを図ろうとしているケースが多い印象を受ける。一方で、クラウドソーシングで安く記事を量産しているようなメディアでよく見かけるのが、アフィリエイト広告などのリード送客による成功報酬で収益化しているパターンである。

 

前者と後者では、圧倒的に後者の方が利益率は良いように感じている。というのも、記事広告を打つ場合は、そもそもまず一定のサイト規模にならなければ法人からの記事広告の案件獲得は難しい。従って、サイトがグロースするまで一定期間待たないといけないため、マネタイズまで時間がかかる。

 

そして、記事広告を売ろうと思うと、クライアントとやりとりを行う営業部隊も必要になってくる。考えてみると、こちらのモデルは労働集約型に近いのだ。月に記事広告の枠を何本、と決めて営業担当が(ときにインバウンドで案件依頼もあるだろうが)クライアントから案件を獲得してくる、というスタイルは実質的には集客力を持つメディアを担保にした法人への提案営業である。すると、自ずから収益の限界も見えてくる、ということになる。

 

一方で、リード送客でマネタイズする場合は、サイト規模が小さかったとしても、徐々に売り上げを作っていくことが可能だ。例えば、メディア内に検索ランク上位に表示され、人々にクリックされやすい記事があるとしたら、その記事からのコンバージョンだけで稼ぐこともできる。

 

そして、何より労働集約型モデルではないということだ。すなわちマンパワーがかからないので、サイトのトラフィックを上げる、もしくはコンバージョン率を改善することで収益は比例的に伸び続けることになる。

 

良質なコンテンツと賢いマネタイズを両立したい

これらのような点から、現在のWebメディアをとりまく環境は少し残念な部分があるように感じている。良質なコンテンツを作りつつ、賢くマネタイズすることはできると信じるし、そういったメディアを自分でも作っていきたいと考えている。